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オオカミ少年とおねえさん

第31章 役立たずな言葉と饒舌な体*



***
そんな訳で外に出た、今私たちが居るのはマンションに併設されている裏庭の一角だ。

今宵は下弦にほんの少しだけ削られた満月が晴れた空にぽかりと浮かんでる。


「真弥。 なんでわざわざついてきたの。 風邪ひくよ」


何でと言われても。


「どっちか怪我したら困るでしょ」


至極普通に返した言葉に琥牙が表情を緩める。

本当は心配半分、好奇心半分。
オリンピックも琥牙にかまけてる間に終わったし、最近こういうの観てないもん。


今向かい合っている彼ら。

けれど二人の間には、雪牙くんの時みたいに、以前のカラオケボックスで感じたような緊張感がまるで無い。
それは目的が違うからだと思う。


なんの合図もなく、二ノ宮くんが琥牙に仕掛けた。

速い。

マンションから漏れる明かりの中で、目で追うのがやっとな位に速い。

『人』に寄せた動き。

的確に人間の急所を狙う、合理的な攻撃。
重心を落とし重くダメージを与える、基本の正拳を元にした右のストレートを打つ。 その直後に左脚の蹴り。
これは私も浩二の試合で見慣れている、人間の格闘だ。
よくもこんな短期間で、とも思う。


それに段々と彼自身の身体能力が加わって、浩二を上回る速度の打撃の連続。

久しぶりに観ると圧倒される。

ビュ、ビュッ! ヒュビュ!

しんとした辺りを空気を切り裂く音の、その全てを琥牙がかわす。
いちいち当たってないかと心配するほどの、僅かな体の移動で。


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