第31章 役立たずな言葉と饒舌な体*
それでも少しずつ、二ノ宮くんの動作にブレが混ざってくる。
全く反撃しない琥牙にか、ことごとく外されている自分にか。
おそらく苛立ちが見えてきた様子の二ノ宮くんに琥牙が口を開く。
「保くん、違うよ」
突然視界の中心から消えて、しゃがんだ琥牙。
そこに顔に向けて発せられた二ノ宮くんの脛を避けて伏せた彼が、地面に着けた手足の反動で上に飛ぶ。
その膝が、腰を曲げた二ノ宮くんの顎を掠めたように見えた。
「えっ…」
飛ぶというか、跳んだに等しい。
もちろんワイヤーかなにかで釣ってるわけじゃない。
なぜか空中で加速───────をして、ザザンっ!! という音と共に頭上の木枝の隙間に入り込んだあとに、太い枝を掴んだ。
そこからまた勢いをつけ、ぐるりと大きな逆上がりみたいな回転をしてもう一段上へ。
彼が立っている傍のすぐそこは、丁度私たちの部屋のベランダだ。
「人がこっちに似せようとする真似事の動きなぞって、何になるの? そもそもやる場所なら、おれらなら地面に限んなくて、こんなとこでも有り得るわけで。 で、来れないんならとっくに逃げられてるよね。 寒いからもういい? 真弥も戻ってきなよ」
「にの………」
振り向くと、彼は憮然とした顔で肩を手で抑えていて、部屋の中にさっさと入っていった琥牙に閉められた窓を見上げていた。
あ、分かった。
あの時加速したのは蹴ろうとしたように見えた逆足で、二ノ宮くんを踏み台にしたのね。
器用だなあ。
「大丈夫?」
「へーき。 反動で軽く脱臼しただけだから、もう癖んなってるし」
折れてたりはしてなさそうだけど。
癖になってる、むしろ、だから逆に折れなかったのかな。
そう思ってたら顔を少ししかめてゴキン、と自分で無理矢理にそれをはめた。
これ、浩二もするけどホントは自分でやっちゃ駄目なやつ。
当分は無理に動かせないはずだ。