第31章 役立たずな言葉と饒舌な体*
***
久しぶりに目にした二ノ宮叔父の卓さん。
すっかり目にしなくなった伯斗さんたち。
仕事が終わって帰る時間には、大概琥牙はマンションに戻っている。
今晩も、しらっとした様子でおかえり、なんて。
彼が準備してくれていた晩ご飯に加えて、簡単な料理を作り私たちは夕食を取っていた。
「あのね。 私考えてみれば今まで、琥牙と普通のデートらしいものをしたことが無いなって思ったの」
「デート。 知ってるけど、あれって本来、欧米辺りでお互いを知り合う目的で伴侶を得るための風習だよね」
違う。
全く外れてはないけど情報が化石。
「いつだってしてもいいんだよ。 恋人同士がいつもとは違う環境で、色んな体験をして。 気持ちの共有を楽しむの。 そうやって関係を深め合うの」
「なるほど」
大袈裟に腕を組み、感慨深く頷く琥牙。
逆にそのせいで崩壊しちゃうパターンもあるけどね、みたいなのは伏せておいた。
「だから昇進祝いは、デートがしたいかなって」
………すっかり目にしなくなった伯斗さんたち。
「いいね。 それから、プレゼントはなにがいい?」
一方、その代わりと言ってはなんだが、浩二の件から三日に一度はうちに来るようになった『彼』。
数度鳴ったインターホンの音に、またかよ。 と心の声で毒づいた。
「いい、座ってて……おれが出るから」
琥牙もややげんなりとした様子で椅子から腰をあげる。
「毎度! 今日も浩二くんとこの道場寄ってきてさ、これ土産」