第31章 役立たずな言葉と饒舌な体*
「……あ! だから」
「何か?」
「え、あの実は」
自分で稼いだお金で私のお祝いを、とか。
わざわざそんな必要ないのに……なっんて健気なの?
感激の余り私が半ば涙ぐみそうになりながら視線を上げ、開きかけた口を閉じた。
二ノ宮くんの叔父、彼の表情がおかしかったからだ。
こう、なにかを疑り探るような、私を通り過ぎた向こう側に、射るような鋭い緑の眼───────……
「叔父さん……?」
戸惑って話しかけた私に、彼がはっと我に返る。
「あ、ああ。 そうだ、コーヒーでもご馳走様しようか? 時間があれば」
「ありがとうございます。 でも私、仕事があるのでもう行きますね」
「そうか。 じゃまた」
はい、また。 遅刻しそうなのは確かだしね。
踵を返してその場を離れようとすると彼の声が追ってきた。
「桜井さん」
「?」
「叔父さんじゃない。 俺の名前は卓(すぐる)だ。 じゃ気をつけて」
振り返った時、苦笑してそう言う叔父さんの様子は普段通りだった。
「はい! ……卓さん」
さっきのは気のせいかな?
でもどうせ、道の脇の茂みに鳥でも見付けたとか、たまに伯斗さんもあんなだった。 狼あるあるだわ。
うんうんと頷きつつも、くすぐったい気分だった。
週末は琥牙と一緒にお出掛けしようかな?
このことは知らないフリしとこう。
ふふ、と口元に自然に笑みがこぼれそうになるのを堪えながら、私は出勤を急いだのだった。