第31章 役立たずな言葉と饒舌な体*
こういうのは相手によっては喧嘩にでもなりそうなものだけど、そうやって首を傾げて『お願い』されると。
バカといいたければどうぞだ。
もー可愛くって仕方ない。
しかも私のお祝いだなんて。
いくら外見が男っぽくなったって絶倫だからって、とっても素直で優しい所は変わんない。
「自分では大したことないって思ってたから。 でも嬉しいよ! 帰ったら話しよう、出掛けるとか、家でやるとか」
「ん。 分かった」
出勤前にごめんね、そう言ってくる琥牙といつもよりちょっとだけ長めのキスをして、甘い気分でマンションを出る。
幸せだけど、とっても幸せなんだけど。
前述した近頃の彼の動向が私は少し気になってる。
朝の冷たい風にコートの襟を合わせながら駅までの道を歩いていた。
雪牙くんたち、元気かな。
琥牙に聞いても、あの件の後始末とかで色々忙しいみたい、そんなあやふやな答えしか帰ってこなくて。
前まではドライブ行こうって言ってたのに。
元気なのならいいけど、やっぱり寂しい。
大通りに出るまでは約五分、それから更に歩いて数分。
大通りは国道だけあって、朝はトラックなどの大きな車も走っている。
「桜井……さん、だっけ?」
太く低い男性の声。 聞いたような、聞いたことのないようなその声に後ろから呼ばれて思わず足を止めた。
「あっ、供牙様…じゃなくって。 二ノ宮くんの」
あの始祖である『彼』よりも、分かりやすい雄みを感じさせるこの人は、二ノ宮叔父本体の方。