第31章 役立たずな言葉と饒舌な体*
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最近、琥牙に関することで変わったと気付いたことがいくつか。
伯斗さんと雪牙くんの訪問があの事件以来ぷっつりと途切れたこと。
琥牙が昼間に出掛ける頻度が増えているらしいこと。
スマホを触ったり、かと思えばぼんやりするようになった時間が増えたこと。
彼に限って浮気とかは疑ってない。
ちなみにだが、行為は一度に三回までと限度を決めてもらった。
ヒト科の女性の体力の無さなめんな。
………とってもどうでもいい話だけど。
「真弥、こないだ言ってた昇進祝いなにがいい?」
朝の出勤前に、クローゼットから薄手のコートを選んでる私に、彼がダイニングの扉から顔を覗かせて聞いてきた。
以前に二ノ宮くんが言ってたとおり、確か先日辞令が出たんだよね。
とはいえ管理職になった訳でもなし、お給料も大して変わる訳でもない。
「ええ、いいよそんなの。 どうせ平社員には変わりないもの」
「……ていうか、真弥って先月誕生日だったんだよね? なんで黙ってたの」
「え? ああ、そうか。 忘れてた? うわ、そしたら私、今琥牙と二つ違いなのねえ」
棚の中の免許証でも見付けたのかな、そんなことがちらりと頭を掠めた。
「そうじゃなくって。 だって、おれの時はケーキ焼いてくれたしスマホプレゼントしてくれたよ」
ん? なんか突っかかる、というか彼にしては煮え切らない言い方だと思った。
だって彼らにはそもそもそんな風習があるのか分からなかったし、やりたい方がやればよくって、何なら来年からでも全然いいし。
「それなら私はどうしたらいい?」
こちらもちょっと冷たい言い方だったかもしれない。
でも何しろ、こんな平日の朝にまどろっこしい話をされても困ってしまうのが正直なところ。
「おれも同じに真弥を祝いたい。 だから昇進と誕生日祝いしてもいい?」