第30章 雄として男として
ふとガラスの外を見たら、今まであった筈の葉っぱはそこにはもう無かった。
すっかり暗くなった夜のとばりに浮き上がった黒い枝が、ゆらゆらと上下に揺れてるだけ。
運が悪かった。 そこかしこにある仲間に紛れれば、長生きできたのにね。
………こんな感傷を感じるのも、今の季節ならではのもの。
なんだかんだ言って、また和やかに打ち解けた私たちが別れる際、浩二は頑としてそこの会計を譲らなかった。
妹が世話んなった礼と昇進祝い、あと無職だろ?
今日は最初からそのつもりだったと言う。 公務員四年目のお給料なんてたかが知れてるのに。
「そもそも浩二が一番歳下なんだけど?」
私がそう言うと、彼が心底驚いた顔をして天を仰ぎ目を手で覆う。 大袈裟なリアクションに私たちはまた笑い合った。
店の外に出ても可笑しくて、涙を拭う私に浩二がねえわー、とかブツブツ言いつつ納得いかない顔をしている。
「おれが変わってるだけだから」
そんな浩二に向かって琥牙が微笑んだ、その彼の内側にある心情も知らずに。