第30章 雄として男として
明らかに誤魔化されたのは分かって取れたのか、浩二が早々にビールのオーダーを追加した後に鼻を鳴らす。
「フン……なんか気に食わねえけど、いいや。 ところでオレ最近、仕事混んでてさ。 昔から通ってる道場でオレの代わりの師範助手探してんだけど、琥牙お前やってみるか? あの弟見てたら型なんかすぐ覚えられんだろうし」
「……有難いけど、止めとくよ。 多分向いてない」
想像だけど、これは浩二なりのお節介なんだろう。
……彼のことを心配して?
琥牙もそれを察したのか、申し訳なさげに断りを入れた。
「あ、俺! 俺行きたい、つか見学さして。 面白そ」
「二ノ宮か? オレんとこは主に学生向けでガタイもお前と変わんねえし……まあ悪くねえかな、興味あんなら。 けどな」
その直後、ヒュっと空気を切る音が聞こえて、目を上げると浩二の大きな拳がテーブル越しの琥牙の顔の、すぐ目の前にあった。
「………なに?」
鼻先まで迫って止められたそれを、その後顔を傾けて避けた琥牙が不思議そうに浩二に言う。
何がどうなってるのかは分からないが、血の気が多い彼を止める為に私が口を挟んだ。
「浩二」
「あん時と一緒で、瞬きすらしやしねえ。 でも微妙に前とは違うよな……? 真弥の気持ちは尊重するけど、得体の知れない奴には変わりない。 ちゃんとしろよ男なら。 目に見える形でな。 じゃなきゃオレは認めねえ」
「…………」
琥牙が目を伏せたまま、無言で温くなったカフェオレに口をつける。
苛ついている弟の様子は分かる。
私にとってはとびきりの雄であり、男性である彼。
それを人間だけの指標に当てはめると、確かに彼は得体の知れない存在かも知れない。
でもそもそも、そんな必要あるのかな。
とはいえ彼の正体を隠している以上は私にも、この場はなんと言っていいか分からなかった。
「まーまー、浩二くん。 妹さんから話には聞いてたけど、予想以上だねえ。 でも、それ以上琥牙さんに絡むんなら、俺の立場としては排除しなきゃなんなくなるから、ね?」
「何?」