第30章 雄として男として
今日のお勧めなんて書かれた黒板を照らす明かりに灯された、レストランの戸を押して店内に入った。
私と浩二が窓際に、あとの二人は通路側のソファに腰掛けた。
その窓から見えるのは、歩いてきた街路樹と、近くで伸びた細い枝に引っかかったように雨に震えるイチョウの葉っぱ。
席に着くなり開口一番に、浩二が私の隣の琥牙を見る。
「しかしまー、琥牙だっけ。 最初見違えたわ」
恐らく会社の前で会ったのだろう。
話し掛けたのは琥牙なんだろうな。
無理もない、と思う。
分かりやすく髪色が違うのを差し置いても身長だって明らかに伸びてるだろうし。 すっかり男の人の体格と、何しろ急に大人びた顔付き。
そんな彼が特に頓着しない様子でオーダーのついでに言う。
「……今は成長期だから?」
「イヤ成長っつって、そんなレベルの問題じゃねーだろソレ…」
「琥牙さんは超レアキャラだからねー」
よく分かんない口を挟んでくる二ノ宮くんも大概レアだと思うけど。
「んでなんで、さん付けな訳? 歳下だろこれどう見ても」
いや浩二、実はあんたが一番歳下なのよ?
琥牙と二ノ宮くんは確か同い年よね。
二ノ宮くんも元々童顔だから、この面子では浩二が一番老けて見えるけど。
そんな質問に、なんと言ったら分からない様子の琥牙が、恐らく彼にとっても意味不明な言葉を反芻する。
「レアキャラだから?」
「なんでいちいち疑問形? それになんかまた、どっかお前ら似たような……」