第30章 雄として男として
気軽に話に加わってくる二ノ宮くんに、浩二が警戒するような視線を寄越した。
小柄な彼を見下ろし牽制するその様は好意的な態度とは言いがたい。
「んじゃ、お前が二ノ宮?」
「そそ。 初めましてイケメンの弟さん? あ、これ俺に? 律儀だね、サンキュ。 それにしても随分鍛えてるねー、ジムとかじゃなくってさ。 ね、何やってんの?」
私の地元の有名な和菓子屋さん。
その紙袋を奪いつつ、距離感無しに懐っこく接してくる彼に浩二は不意打ちを食らった様子だった。
まあこうなるよね。 そんな視線を私と琥牙が交わし合う。
「………空手とか少し。 元は日本拳法」
「やっぱり。 拳の形とか足腰の座りで分かるよね。 それで今自衛隊なんだ、へー。 銃剣とかその辺も?」
「あー。 そりゃ四年目だからぼちぼち……って、詳しいなお前」
人って、自分のマイナーな趣味や仕事を分かってくれることは存外嬉しいものだ。
そんな浩二の弱い所を、二ノ宮くんはちくちく刺激してくる。
元は単純な性格の彼の表情から警戒心やマウントが消えて、私たち一行の雰囲気がほのぼのとしたものになり始めた。
そんな中で今からどうする? そう私が切り出すと二ノ宮くんもうんと頷く。
「まま、雨の中立ち話もなんだしさ。 どっかいこーよ。 琥牙さんって、飲めましたっけ?」
いやおれは。 オレも車だから。
フルフルと首を振る琥牙と片手のひらを挙げる浩二を考慮して、私が会社から近場の、ファミリー向けではないレストランを提案した。
色付いてきたイチョウの街路樹が夕焼けを逃して暗くなりかけたオフィス街を彩る。
すっかりそれらの葉が落ちたら、その頃のここの景色は七色のイルミネーション。
そんな中を、もうじき琥牙と歩けると思うと嬉しい。