第30章 雄として男として
その日は朝方から少し冷えて、職場のデスクで帰り支度をしながらもう標高が高い里の方は紅葉も終わりかけかな、なんて思った。
「ん……どおりで」
降るほどに冬の訪れが忍び寄る。
そんな秋雨の景色のせいで、エントランス前の景色がぼやけて見える。
……その中に、私がよく知るイケメンの人影がふたつ。
やだなあ。 そう思ったのが率直な感想。
悪目立ちしたくないんだよ、私。
「お疲れさん! 琥牙さんといるあの長身の男前が桜井さんの? まった、兄弟多いんだ?」
そんな声を背後から私に掛けて通り過ぎ、タッタッタッとそちらの方向に駆けていくのは二ノ宮くんだった。
終業時間が被るなんて珍しい。
「保くん、こないだはありがと。 行けなくてごめんね」
「っかれさん、真弥」
その後をついて行った私たちに話しかけてきたのは、会社の前で待ってた様子の琥牙と弟の浩二。
いつもみたいに傘を届けに来てくれた琥牙は分かるけど、なんで浩二まで?
不思議そうにしてる私を受けて、浩二が眉を寄せ呆れた声を出す。
「ラインみてねーの? こないだ美緒たちそっち邪魔したじゃん。 聞きゃ真弥の会社の知り合いんとこ世話になったとかって、だから挨拶がてら」
「妹さんと、琥牙さんからも昼休みに俺んとこ連絡あったんだよね。 今日俺、残業も無さそうだし合流しよって」
そういう訳か。