第5章 この後掃除が大変でした
「あれ? でもそしたらすでに狼にもなれる雪牙くんがいるから、琥牙の成長うんたらも問題無いんじゃないの?」
何も琥牙が無理して一族の重責を背負わなくっても。
そしたら琥牙は自由になって私たちは二人っきりで甘い生活……
「個人的にはそうしたいんだよ」
「私たちの世界は厳格な長兄制度なのです」
「………んな」
雪牙くんがそっぽを向いたままぼそりと何かを呟いた。 そういえばまだ一度も彼は私と目を合わせてくれてなかった。
「え? なあに?」
「んな事も知らないで兄ちゃんのつがいとかバカじゃねえの、お前」
「はっ?」
一瞬空耳かと思った。
「雪牙様」
「伯斗が義姉さんと似てるっつうから見に来てたんだけど。 なんでこんな無知でそそっかしくてガサツな女がそうなのか訳分かんね」
「おいこらおま……」
「大体オレは相手が低レベルの人間だってのも嫌だったんだよ。 けど義姉さんは人の血が入っててももっとしとやかでとびきりの美人だったし、あんたとは全然違う。 大体何オレの兄ちゃんに風呂掃除とか飯とか作らせてんの? 何様?」
「……………」
怒涛の如くの悪意の洪水に私は言葉を失った。
……こんな天使みたいな見た目なのに。
「雪牙様、いけません」
「……ってさあ、兄ちゃんに似合うのはオレ、もっと女らしくってどっかのお姫様みたいなの想像してたんだよ」
「だよね」
そこは私も深く頷いて同意する。
「雪牙様、琥牙様がお選びになった女性を貶める事は兄上様をも侮辱するという事ですぞ」
「………そん…」
伯斗さんにたしなめられた雪牙くんが不満げに再び何かを言いかけて、ハッとその口をつぐんだ。