第5章 この後掃除が大変でした
「生まれた時からいる爺さんみたいなものだから、おれの事心配してるのも分かってるよ。 確かに子供でもできたら里でもあんな肩身狭い思いしないで済むって思ってるんだろうし」
「こ、琥牙様……申し訳ございません」
「だからってああして毎晩覗かれてたら、出来るものも出来ないんだけどね……」
ああ、琥牙の『出来ない』理由がようやく分かった。
こんな私にとってはどうでもいい事情に自分は振り回されてたのかと思うと。
特に腹は立たないが何だか生暖かい気持ちになった。
「それから、もう一匹。 おい、雪牙(せつが)」
雪牙と呼ばれたその狼。
泊斗さんより少し小さく、毛全体が少しカールがかって雪みたいに白い。
つんとした印象ではあるが、狼をすでに見慣れてる私に怖さはない。
「おれと違って優秀な腹違い、純血の人狼の弟だよ」
琥牙がそう紹介すると、昔ばなしの狸や狐が化ける時みたいにぼふんとその姿が変わり、まるで人形みたいな北欧風の少年が現れた。
琥牙より少し歳下、白銀の巻き髪。
で、真っ白い肌にくりんくりんの蒼い瞳。
なんですかこの生き物。
「……かっ……」
可愛いい!!!!
そう抱きつこうとした私を、琥牙が後ろから襟元を引っ張って制した。
「ストップ。 真弥のそのリアクションも何となく予想してた」
何とも嫌そうな琥牙の顔。
今まで彼を紹介してくれなかった理由。
これも察した。 琥牙ってただでさえヤキモチやきだもんね。