第5章 この後掃除が大変でした
「…………ん?」
自分の身に何も起こらない、それどころか私に覆い被さっていた彼の気配も無くなり、そっと目を開くとベランダの窓の前に立ってる琥牙。
「言えなかったのはあんまり情けなくって身内ごと嫌われそうで」
そんなことを呟いた琥牙が思い切りカーテンを引く。と、そこにはべったりと窓いっぱいに張り付いてる、二匹のデカい狼が居た。
「はっ、伯斗さん!?」
しかも増えてるよ。 もう一匹。
口を開けたままはくはくと言葉が出ない私。
ため息をつく琥牙。
目を逸らすニューフェイスの狼。
慌てふためき言い訳を探す伯斗さん。
「あっ…あの、これは」
……どおりで最近窓ガラスが汚れてたワケだ。 そんな事をぼんやり思った。
「……おれが説明するよ。 純血の狼って馬鹿でもプライドだけは無駄に高いから」
『馬鹿』を強調して琥牙が話し始める。
今室内の真ん中には、二匹に増えた狼が鎮座している。
スペースが無いので仕方なくベッドに座ってる私たち。
部屋の動線なんてもうどっかにいってる状況である。
「伯斗はおれの伴侶探しが目的なんだよ。 あんまりおれが出来損ないで不甲斐ないから、おれの子供に期待かけてるの」
そればかりとは思えないけど、伯斗さんのあの敏腕営業マン振りを思い出すと少し位は当たってるのかもしれない。
に、しても。 今日の琥牙はいつもにも増して伯斗さんに冷たい。
「……そんな事はありませんぞ!! 私はあくまで琥牙様の御身第一として」
誠に遺憾である、そんな表現でも当てはまりそうに鼻に皺を寄せながら伯斗さんが抗議する。
「おれが寝入ってたり風呂入ってる時に真弥に焚き付けてたでしょ? ちゃんと聞こえてたし、今更こんなナリに油断してたの?」
「う………」
それなら琥牙の方も止めてくれればよかったのに。
私的には結構どっちもどっちだと思ったけど、それは黙っておく。