第28章 桜井家の最終兵器
「こう、お金で買われたり……とか」
この思考回路はきっと浩二の影響ね。
そう思い私はこめかみを軽く指で抑えた。
「自分の姉を信じてないの?」
「そうじゃなくて! むしろ、お姉ちゃんは昔からお人好しすぎて心配なだけで」
「……それは、少しだけ同感かな」
「そう! それで昔はしょっちゅう妙な男性に付け回されたり」
ちょっと、自分棚にあげて私の過去の黒歴史披露とかやめて?
『でも今さ、莉緒ってば普通に男の人と会話出来てるよね? こんなの初めて』
美緒がそう小声で言ってきて、そういえば。 と頷いた。
一応、成功なのかな……?
「付け回し? その話、もっと聞かせて」
「琥牙さ……ち、近っ…」
そこへ再び部屋に響くインターホン。
「あれ? また誰か」
ずいっと莉緒に身を乗り出していた琥牙の動きがぴたりと止まり、真っ赤な顔をした莉緒が慌てて立ち上がった。
「あわわわ……私が!」
そして逃げるように玄関に駆けていく。
私と美緒が顔を見合せ、どうだろう。と言い合いながら立ち上がり、「少しはマシになったかな?」と呟く美緒にほっとする。
「やー。 ゴメンこんな時間に。 こないだなんか様子がおかしかったから……あれ? この匂い、桜井さんの妹? すっげかわいーね! 初めまして。 俺、保っての」
「────────!!」
その明るい声に嫌な予感がして、私を先頭にあとの二人と一緒に玄関先に向かった。
飲みの帰りなのか、スーツ姿の二ノ宮くんと莉緒が向かい合い、彼を見詰める莉緒の瞳が再び潤んでいる。
「可愛い…っ!? た、保さんこそ。 中性的で、それでいて頼りがいのありそうな、なんだかとっても不思議な安心感……」
こっちは脱力感しかないよ。
背後で疲弊した声で莉緒お……と呟く美緒の隣で、安堵したような細い息を吐く琥牙の気配がした。