第28章 桜井家の最終兵器
「お待たせ……あれ? 他のみんなは?」
ちらと覗くと髪をキレイにくくり直し、薄くグロスなんかを付けた莉緒がバスルームから戻ってきて、ソファに腰掛けている琥牙と周囲を不思議そうに見回した。
ちなみに私と美緒は明かりを消したキッチン側の、カウンターに潜って出歯亀をしている。
「さあ。 あのさ、映画でも見る?」
「映画をふ、二人っきり! で!?」
「どうせ最初これ観ようと思ってたし。 色々台無しになったけど。 色々」
うっ、絶対また根に持ってる。
「もう少しこっち来なよ。 寒くない?」
「ふわあ。 琥牙さん! やさし……」
彼らが掛けてるのは大きめの三人掛けのソファ。
感極まったような莉緒の声だった。
「莉緒ちゃん、だっけ」
「わっ…私の名前っ……!」
いいからもう少し落ち着け。
最初はちょっとだけ面白かったけど、些細なことに過剰反応するうちの妹がいっそ不憫に思えてきた。
「手とかちっさくて可愛いよね」
「てっ…手っ。 握られ…!!」
「こう、肉球に例えるとピンク色ですべすべな」
「肉球……?」
「……何でもない。 えっと」
なぜそれに例えるか。
申し訳ないとは思いつつも、思い切り無理をしてる琥牙に吹きそうになった。
少し沈黙が続き、琥牙がテレビを付けたようだ。
お笑いかなにかのどっとした騒がしさが部屋に響く。
「あの、琥牙さん、は。 お姉ちゃんのことを愛しているのですか?」
「は?」
はしゃいだ様子と打って変わって抑えた声のトーン。
どうやら話が違う方向に。
いい感じだったのに、テレビとかでぶち壊すから。 美緒もそう思ったのか隣から軽い舌打ちが聞こえた。