第28章 桜井家の最終兵器
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とはいえ、だ。
人選的に彼が最適だったことに私たちは気付いた。
「え、なんで三人ともそっちに行ってんの?」
スナック菓子や銘々のジュースやらの飲み物をローテーブルに並べ、ソファで寛いでいる私たちに向かって二ノ宮くんが声をかけてきた。
「お構いなく。 あ、ビール冷蔵庫に入ってるから」
「あー肩凝った」
「この俳優さん、いいよねー」
男性性を無駄に感じさせないルックスと、人を油断させる調子の良さと人懐っこさ。
しかも彼は安全だ。
今度は二ノ宮くんとダイニングテーブルを挟んで向かい合わせに座っている莉緒がうっとりと彼を見詰めている。
「あ、あの。 私って可愛いですか……?」
「うん。 昔うちの近所でよく見掛けたリスとそっくり。 くりくりしてる丸い目とか。 美味しそうな小動物みたい」
「えっ、そんな……」
嬉しいとこかそれ?
微妙に食料にされてるし。
派手なカーアクションを繰り広げている映画の音量をバックミュージックに、背後の彼らは楽しく話をしているようだ。
「和泉高校? 進学校だね。 勉強大変じゃない?」
「そう、ですね。 でも、美緒が教えてくれて」
「良いね。 大学とかもう考えてるの」
「実は私、姉みたいな会社なんですけど、もう少しメディア寄りの方向に行きたくって」
「へえ、もうそこまで目標あるって凄い。 他課だけど俺知ってるから仕事のこととか興味あれば色々教えよっか?」
「ホントですか!? 嬉しい……優しいんですね」
「あはは。 可愛い子だけにはね」
そういや二ノ宮くんって、会社でも案外モテるのよね。
前は存在さえ知らなかったけど。
何となく分かる、と今はそう思う。
その割に浮いた噂が無いのは当然なのだが、彼のそんな所も誠実な男性だと周囲からは定評があるらしい。