第28章 桜井家の最終兵器
「はあああ……心臓が持たない。 私、ちょっとお花摘みに行ってきますね」
「へ……こんな夜に?」
顔を伏せていきなり上品キャラに豹変した妹を見送ったあと、私は琥牙にこっそり手招きをした。
「琥牙、来て来て」
「何あれ? ホントに真弥の妹なの。 なんていうか、面倒くさ過ぎるでしょあのテンション」
そんなこと言われても、私があの子と住んでたのなんて彼女が小学生の時までだし。
そう言い訳をしつつうち家庭環境と莉緒の性格を彼に説明する。
「……なるほど、要するに男に免疫が無い、と」
「せめてもう少し、慣れてくれればいいんだけど」
そんなこちらの事情に一応の理解は示してくれたものの、困ったように腕を組んでいる彼につられて私も腕組みをして考え込んでしまった。
それに口火を切ったのはどこか声を弾ませた美緒。
「いっそこう、琥牙さんが敢えて口説いてみるとか!」
なんか面白がってない?
「口説……なにそれ?」
「するとお姉ちゃんが喜ぶことだよ!」
なんだろう、一瞬考え込んでああ。 と琥牙が頷きそれから渋い顔をした。
「それは流石に。 まだあれペッタン」
「琥牙! そうじゃなくって。 世間話したり褒めたり軽く手を握るとか」
喜ぶ種類が違うしやれとも言ってない。
というか、胸があればいけるのか?
確かにソフトに接すると少しは慣れるのかも知れない。
うちのゴリラもとい、浩二と琥牙って、真逆のタイプだし。
それでも不満げに愚痴る琥牙。
「ええ……だって、今晩は久しぶりにせっかく一晩中」
ストップ、未成年の前でそれ以上言っちゃダメ。
「琥牙助けると思って」
心から申し訳なく思いつつも、頭を下げる勢いで頼み込む。
ここまで放っといた妹たちの責任は姉の私にもある。
「うーん……まさか伴侶からそんなこと頼まれるってどうなの。 ……飽きないよねー真弥は。 いやほんと」
「ゴメン。 後から何でも言うこと聞くから!」
珍しく嫌味めいた言い方に、明らかに彼の気が進まないのが見て取れる。
「何でも、ねえ。 うーん」
それでも首の後ろに手をやりつつ、ブツブツ独り言をこぼしながら琥牙がダイニングに戻って行った。