第26章 狼の里にて 後編*
「お義母様…と、供牙、様!」
相変わらず落ち着いた様子で供牙様の前に立っていた朱璃様が室内を一瞥し、ふむ、と一度頷いて私に向かって密やかに眉を寄せる。
「すまんな。 お前に最初に明かすと琥牙、あやつが勘づいてしまうと思ってなあ。 互いの意識を起こした上で、受け入れ合うにはこれしかないと思ったんだよ。 元々は、血だけではなく利害や好みも一致していた二人だったからなあ」
「依存は無い。 あそこを粗末に扱うのを止め、伴侶の呪いの元凶だったよし乃の代わりに、奥方たちを眠らせれば、彼女たちの気も済むだろう。 勿論お前…我が息子からの供養や謝罪も必要になるだろうが。 何事も中庸という事だな……しかし、私と違い前例が無い。 ……琥牙。 気分はどうだ?」
二人の柔らかな目線の先に誘われて、つい振り返るといつの間に琥牙が意識を取り戻していた。
伏せ目がちに片膝を立て、 複雑そうな表情で亜麻色の髪の生え際を指で抑えているのは、髪の色が違うだけの、私がよく知ってる彼だった。
「……疲れた、かな。 色々」
「こ……琥牙?」
それなのに違和感……そういう程でもない、妙な圧を彼から感じた。
そんな私に構わず、彼らが身内の話をする。
「母さんと…供牙さん。 ……お節介だね」
「自分の子を救うのに節介もくそもないわ。 甲斐性も無い癖に勝手に物事をややこしくしおって」
「牙汪、あれも私の子ならもう少し成熟した者でも良さそうなものだが……我が子ながら厄介な性分だ」
内容が把握しきれなくて、鳥みたいにキョロキョロと声の方向に反応していた私に朱璃が気遣わしげな目線を送った。