第26章 狼の里にて 後編*
『おれの中でずっと見てきたあんたには分かるだろ』
……それって、逆も有りって事?
アワアワしてる私に構わず、ふーっ、と息を吐いて髪を掻き上げた牙汪からはいつもの嫌味ったらしい様子が見て取れた。
「さっきまでオレの意識しか無かったのにな。 あんなやる気なさそうな奴が、あんたが絡むとそうなのか」
「………ふえ?」
「オレの目的は果たせたからいいさ。 最も、あんたがいけ好かない女なら協力なんかしなかったがな。 メンドーだからあとは他に聞け」
意識?
目的?
待ってよ脳みそがついてかない。
「他っ…て……」
「んじゃ、オレは寝る。 またな」
そう言って牙汪はことんとベッドの脇の壁にもたれたかと思うと、すうっと目を閉じた。
牙汪? 呼んでみるもそのまま動かない。
「……琥牙?」
やっぱりぴくりともしない。
私の目の前に居る、これはどっち?
『果たせた』?
いや果ててないじゃん、そんな下世話な冗談が頭を掠めたがスルーをして考え込む。
「あれ?」
『またな』
牙汪はそのまま?
そしたら私のしたこれは、ただの………
脳内がはてなマークで埋め尽くされそうになる直前、ガチャリと扉の擦り合う音で我に返った。
私の今の脳みそ状態と不釣り合いな、のんびりとした彼らの声が狭い室内に聞こえる。
「終わったかなあ? 途中で寝かけたわ」
「しかし、完全に同化させるとは。 それでも諸々考えてこれが一番やもしれぬ」