第26章 狼の里にて 後編*
気付くと私の体には最初に着てきた上衣が羽織られていた。
「私……倒れてどうしてたの?」
「……いきなり気失いやがって、起きたと思ったらしばらく呆けたまま訳分かンねえ事口走りやがるもんだから。 頭でもイカれたんかと」
ぶつぶつと洩らしてくる牙汪は少しほっとしたような表情をしていた。
この人は琥牙を心から嫌ってはいない。
……きっと琥牙の方も。
『それをオレが引き受けた』
時々垣間見えていた、琥牙の烈し過ぎる一面。
御し切れない、そんな面が彼らには確かにあるのだろう。
普段は当たり前の怒りさえ押し殺そうとする琥牙のそれを呑んでくれていた、この人はきっともう彼の一部。
「それで、続きは必要?」
そしてとりあえず首を傾げながらも、私は彼に向かって両手を伸ばした。
以前よりも嫌という訳ではなかった。
……どこか牙汪の心の内。
やり切れない、切ない思いを知った気がする。
それより何より、私は琥牙を救うと決めたのだ。
こんな事で戻ってくれるかなんて分からないけど、あんな所に彼を置いてちゃいけない。
独りぼっちで死なせてなんかあげない。
そんな私の顔と広げた手を交互に見ながら、牙汪が訝し気な顔をする。
「薬消えてるよな? あんなデロデロだったのに。 なんでか知んねえけど」
「ん? よく覚えてないけど。 いいよ。 前は死ぬほど嫌いだったけど、頑張ったら何とか……吐かない程度はいけるかも知れない」
至極真面目な顔でそう伝えると、片方の手のひらを額に当ててうーんと考えてから、彼がふはっと笑いを洩らした。
「もうちょっと、言い方」