第26章 狼の里にて 後編*
***
「あの……お義母……朱璃様? これは一体」
今、私は目の前の鏡に映っている、困惑した自分の表情と満足気に頷く朱璃様の顔を見ている。
「この里に伝わる代々の伝統衣装だ」
「でも、これは」
鏡の中の自分。
まず、体を覆っている布の面積が少ない。
その上に肌を隠すという用途を捨ててるみたいな透けた、民族衣装調のナイトガウン、とでもいうのだろうか。
そんなものを緩くウエストの辺りで細い紐が支えている。
下着などをつける必要はなく、そもそも下に着てるこれが下着みたいなものなのだが、胸を包んで持ち上げる、そんな機能も期待できそうにもない代物。
それは下も同じような感じで、お尻の線も丸わかりだ。
「そもそもこれは、服なのでしょうか」
「うむ。 狼よりはずっといいだろう? 奴らは基本裸なのだし。 しかし、真弥が着るとまた叙情的な深みを増すなあ」
劣情の間違いではないだろうか。
「それであの、今晩私がわざわざこれを着る意味は?」
「この里の大事だからな。 元々は琥牙、あれの姉の為に用意していたものを昨晩仕立て直したのだ。 しかし、胸の布が少しばかり足りなかったな」
少しじゃないよ。 ズレたら見えるよこれ?
しかし琥牙のお姉さんの為。
そう言われると、文句は言えない。
朱璃様の言う通り、彼らの世界ではそもそも衣服など必要無いのだし。
狼である彼らとの和合の願いを込めたものだ、付け加えてそう言われるとそんな気もしてくる。
今晩は牙汪が再びここにやってくる日だ。
一晩身を捧げても死ぬ訳じゃない。