第26章 狼の里にて 後編*
「私、供牙様の事忘れません。 朱璃様や伯斗さん、雪牙くん……本当は、加世さんにもお会いしたかったのですが」
「私に向かって今生の別れのような事を言われてもな」
そんな事を言われ、思わずくすりと笑う。
「……言われてみれば」
だけど、琥牙の事は。
私がここを去った後、何も無かったように私はまた恋をするのだろうか?
そして、他の人と普通に結ばれるなんて有り得るのだろうか。
「供牙様は、加世さんが居なくって寂しいですか」
「寂しくないといえば嘘になろうが。 私が在る限り、胸の内にあれも在るからな。 それに、お前たちの事は全員、私と加世の子の様にも思っている。 私たちの大切な宝だ」
そう言って曇りのない瞳で戯れる彼らに視線を向けている供牙様からは、嘘偽りのない大きな愛情が見て取れた。
たとえ心や体に傷を負っても、こうやって誇り高く有れるものなのだ。
多分、私はもう誰も好きにならないと思う。
離れていても、いつも琥牙を想う。
こんなに愛してるのだから。
たとえ目に見える証が無くっても、この気持ちは失いたくないから。
そんな願いをこめて空に透けそうな月を見詰めていた。