第25章 狼の里にて 中編*
似た境遇。
そんなものも、牙汪が琥牙に同調した理由になるのだろうか。
こんなに二人は異なるというのに。
いや、そうだろうか。
彼は悲しみや怒り、そんなものに駆られる時、琥牙はその表情や声から感情を消すに過ぎない。
ビジネスホテルでの『彼』はきっと琥牙だったのだと思う。
「その女をオレに与えるなら、返してやってもいい」
「それは私が許さぬ」
「ダメだ」
間髪入れずに供牙様と、後ろにいた雪牙くんが応える。
そんな供牙様と私たちを見渡し、牙汪が若干の余裕を見せながら片方の口角を上げた。
「じゃあ、どうする? 親父。 あんたがオレに手を出すんなら、この男が傷付くだけだぞ」
「………最小限、体を傷付けずに精神を痛め付ける方法なら、幾らでも知っているが」
「……………」
二人が睨み合う。
その場が不穏な空気に包まれる前に私が口を開いた。
「構いません」
「真弥っ!」
私の腰にしがみついてくる雪牙くんの肩を抱いて、牙汪の顔を見据えた。
私はこの子に琥牙を返してあげたい。
朱璃様にも。
「私なら構いませんから、琥牙を戻して下さい」
牙汪がそんな私からふいと視線を外し、地下のここから見えるはずも無い空を見上げる。
「……月がまだ、満ちてない。 その頃にはこの怪我も治るだろう」
思ったよりもしっかりした足取りで、牙汪が供牙様を通り過ぎて、私がいる戸口に歩いてくる。
それを左右に避けた私たちの傍を通りかかる時に、小さく彼がひと言言った。
「約束を違えるなよ」
「……そっちこそ」