第25章 狼の里にて 中編*
きっと供牙様は村の仲間や牙汪を守ろうとしたのだと思う。
供牙様が……加世さんと供牙様が、命を賭して終わらせようとした憎しみは、結局のところ、牙汪にとっては無駄だったのだろうか。
「──────琥牙を、返して下さい」
一歩進んで発した声で、牙汪が虚ろな瞳を私に向ける。
目をすがめ、記憶を辿るようにさ迷わせながら彼は口を開いた。
「……よし乃、じゃない。 こないだ、会った女か」
「あなたにも事情があるのでしょうけど、琥牙は私の大事な人なんです」
未だ意図を掴めない、といった表情の牙汪に腕を組んでいる供牙様が付け加えて言う。
「琥牙、その体の男の伴侶の真弥だ」
「なるほど……ああ。 知ってる。 向こうでこの男がずっとオレの邪魔をしてたのはこの女のせいだ。 同時に、このオレを呼び寄せるのも」
肩を庇ったままゆっくりと立ち上がった牙汪が息をつき、壁に体重を預けて寄りかかった。
「お前が唯一好いた、人であったよし乃に、手を出さなかった理由が何となく分かった。 今更真弥を欲しがるのも」
「さあ。 よし乃はあんたを好いてたからな」
「……それだけじゃあるまい」
申し訳ないけど手を出しても、無理だったと思う。
結局、よし乃さんは優しい人と結婚したと言っていたもの。
「そしてこの男もオレと似た境遇で、オレを押し退ける強さも無い癖に、当然みたいに……親父と同じように全てを持っている」
自嘲じみた口調だった。
それにしてもさっきからよく見てると、琥牙よりもこの人の方が感情が豊かだ。