第25章 狼の里にて 中編*
「馬鹿、な……今のあんた…には、その女の加護も無いのに」
未だ地面に目を据えたまま、おそらく体を庇った際に痛めたであろう肩を抑えている。
「力など、必要な時に必要なだけあればいい。 それを誇示するのはお前が弱い証拠。 誇り高い狼ならば分かるだろう」
「オレは……あんたを殺った奴らを、倒したんだぞ?」
今私には供牙様から殺気や闘気などというものは感じられない。
その姿は獣というより、地に根ざす大樹のようにそこに佇んでいるだけだ。
「私は加世の元夫……村を脅かす元凶の男を倒したまで。 言ったであろう? 大勢を相手にするには頭を叩けばいいと。 そして村の象徴である私が生きていれば、また争いが起こるのは分かっていた」
「そこで八つ裂きにされた、あんたの骨を拾った」
幾分低められて話す声に供牙様はしばらく押し黙っていた。
「そうか……持ち帰ってくれたのはお前か」
その静かな声が途切れるか途切れないうちに、語気を荒げた牙汪がそれを遮る。
「その時のオレの悔しさが、分かるか。 あんな下らない人間に理不尽に親を殺されて、村でも腫れ物みたいに扱われ続けた、オレの気持ちが分かるか!!」
「…………」
激しく感情を吐露する牙汪を、供牙様は黙って見下ろしていた。
牙汪が地に伏せられてから、ひと言も発さずに息を潜めて私たちはその様子を見ている。