第25章 狼の里にて 中編*
「私怨? 違うな。 それはただオレが強大だからだ。 付け加えるなら、オレはこの体の男が嫌いでね。 こんなにもオレと似た血を持っているのに、とんだ腑抜け野郎だ。 そしてようやく気付いたが、この男の中身はどことなくあんたと似てる」
私の後ろにいた雪牙くんがギリ、と歯を噛み締める音が聞こえた。
最初の様子から、もう内情は知っている様子だったが雪牙くんからすれば琥牙を苦しめているこの男を許せないのだろう。
そして今琥牙を侮辱された私の思いも同じ。
「身の内の獣を抑え、人などを伴侶にするからこうなる。 オレがここを作り替え、昔成し得なかったオレたちの国を作る」
………そんな事んなったら滅茶苦茶だ。 二ノ宮くんが呟く。
「……あまつさえ、これが我が息子とはな」
供牙様が軽く頭を振ってそう呟き、牙汪に向かって二歩三歩と足を踏み出す。
「おい、近付くな。 この女がどうな」
丁度私たちと牙汪の中間辺りにいた供牙様。
それがひと息の間にその姿が消え、見れば牙汪の首を片手で掴み、その足先の20センチは空に浮いていた。
「グッ……ゥ…っ?」
牙汪が苦しげに表情を歪め、両手で首に掛かった腕を掻き外そうとするがそれはビクとも動かない。
供牙様がその牙汪ごと腕をかかげる。
咄嗟に体を曲げて、部屋の奥まった地面に叩き付けられた牙汪が床に手を着き、激しく咳き込み息を整えようとするまで、私たちは唖然としてその光景を見ていた。