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オオカミ少年とおねえさん

第25章 狼の里にて 中編*



彼、牙汪から5メートル程距離を置いた所で足を止めた供牙様が話を続ける。


「その上で訊くが、お前が人や我が同胞を数え切れないほど殺めた理由は?」


私からは供牙様の背中のしか見えないが、いつもの穏やかな声だ。

「そのまどろっこしい話し方には覚えがある。 ……理由、ね。 今更………オレとそう変わらない力を持ってたあんたには分かるだろ? 肉親が殺られたらやり返す。 不確定要素を持ってる者は排除する。 間違ってるとは言わせないぜ」

「私はお前に……自分のそんな過去の産物の後始末をさせたのだな。 お前にばかり罪を被せて」


そう言う供牙様の体の横で作られた拳に力が篭もる。


「そう悲観するもんでもない。 相手の肉や骨を食い破る時、昂るのは本来のオレたちの姿だろう。 そうやって今も、生きてる筈だ」


早くに供牙様が亡くなったせいなのだろうか。 二人の間に親子らしさを感じ取る事は出来ない。
ただ、牙汪という人間が普通に、供牙様と一見は理性的に話しているのは意外だった。


「否めぬ。 だが、人の加世を伴侶とした私は異なる。 単なる憎しみはまた争いを呼ぶのだと、そう教えてくれたのは妻だった。 そうでなければ、お前は生まれておらなかったのも真実」

「その『人』が、オレの父親と母親を殺した。 この体の男の父親も。 『人』が、母親の首を晒した。 それもまた事実だ」


彼の足元で伏していた朱璃様の手の先がぴくりと動いた。
朱璃様。 伯斗さんが小さく声を発した。
これ以上話しても無駄だと思ったのか。 供牙様がほうと息を吐いて本題に入る。


「………それで、その体を乗っ取っている理由は? 未だ私怨でそうして他の者を傷付けるつもりか?」


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