第4章 雨夜のためいき
昨晩琥牙に触れられた時から。
あれからどこか熱を持ったみたい。
あんなキスをこの人はくれるんだろうか?
……多分答えはNo。
口に出さずとも私が自分のものなのだと、あの時琥牙は全身でそう言っていた。
今晩は単にそれに気付いただけだった。
自分に向けられた剥き出しの感情に煽られたのかもしれない。
きっと私はどうかしてる。
琥牙が、欲しいなんて。
「危なっかしくはあるんだけど」
「え?」
「隙があるようで無い。 桜井さんって、今まで何ふり構わず人を好きになった事ないでしょ?」
「何でそんな事分かるんですか?」
「俺がそうだから。 じゃないと初対面で名刺なんて渡さない」
「だから安全な女だとでも?」
「褒めてるんだけどね。 流されて自分に酔ったりするなんて、無駄な時間が無いのは幸運だと思うよ。 俺みたいな男から見たらね。 あまり暗くなると帰りが危ない。 ワインも空いたしそろそろ出ようか」
そう言ってすっと立ち上がり、会計に向かう高遠さんを見ながら小さく息をつく。
無駄、ね。 本当は、私もあんな風に冷たい人間なんだろうか?
「高遠さん。 お会計、私も出します」
「いいよ。 楽しい思いさせてもらったから。 雨、大分止んだね。 駅に戻る?」
「はい、でも」
「じゃ相合傘で帳消しってのはどう」
慣れた様子で傘を差し掛けてくる彼。
「私の相合傘、随分と高いんですね? ありがとうございます」
そうやって歩き出して、自然に微笑む高遠さんの側の肩が濡れていた。
彼は取り立てて冷たいわけじゃない。
ただ琥牙や泊斗さん。逆に人間臭い彼らと比べて、そう思ってしまっただけだ。
そして私は彼らのそういう所が好きなんだろう。
「桜井さん、しぶきがかかるから歩道側に寄って」
そう言って腰に手を添えられた時にぎくりとした。
首筋に、何かが這うような─────────