第4章 雨夜のためいき
「……ふーん」
「なにか?」
「こういう風に誘ってきた辺り、桜井さんってそういうの分かってそうな気がしたんだけど案外初心なのかな?」
「…………」
「俺は嬉しかったけどね。 無理目って思ってたし」
話す事が仕事だからこういうのも上手いんだろうか。
けれど何となく分かってしまった。
仕事が多忙だという割に、綺麗なワイシャツと皺のないスーツ。 メッセージの返信の早さや異性に対する嫌味のなさ。
「高遠さんって結婚してます?」
「……そういうの気にする?」
「必要ない、かな」
そう言って一応は、申し訳なさげに肩を竦める私に高遠さんは愉しげに目を細めた。
基本的に去るものは追わず。
面倒事が嫌い。
そういう所、この人と私は少し似てる。
身分を明かしたり嘘をつかず、敢えて誠実に振る舞うのは自信の表れだろうか。
「こうやって綺麗な子と楽しく過ごせるんならこだわんないよ。 お酒の席だろうがホテルだろうが」
むしろこだわるのはこっちの側じゃないの? そう言いそうになったが、喉元に止めておいた。
そこまでこの人に気持ちがある訳じゃない。
「私も高遠さんみたいに素敵な人と過ごすのは好きですけど、ベッドの中は遠慮しとく」
「そう? 気が向いたらいつでも」
既婚者がそれと分からなかったらモテる、ってのが何となく分かった。
この余裕みたいなの、崩したくなる。
どこか自分がおかしいのに気付いていた。