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オオカミ少年とおねえさん

第24章 狼少年を追え*




「え……?」


お互いにそう間抜けに呟いてしまった高遠さんと私の心中は、おそらく異なるものだったと思う。

思いがけなかったであろう私の激しい抵抗に尻もちをつきつつ。
何気なく私が向けている視線の方向へと振り返った高遠さんは、瞬時にぎょっとした顔をした。


「あっあ! ホテル……お前! なっ…ここ、違…」


文章になってない。
琥牙の事が余程トラウマになっているらしい。

そういえば琥牙ってこういう時、呼んでなくても勝手に来たことがあった。


そしてあんなに恋しく思っていた恋人に対して発した間抜けな私の第一声。


「琥牙……どうしたの、ここの鍵は?」

「スペアキーもらった。 ドア壊したくなかったし……ちょっと無理矢理気味だったけど。 あのさ」


入口を開けっ放しのまま近付いてきた琥牙が、もはや喉から掠れた声を絞り出しているだけの、座り込んでる高遠さんの前にしゃがむ。


「前にあれ、あんたの腕折りかけた時。 おれ、どっちかというとやり過ぎたかなあ、とか後から思ってたんだよね。 ごめんね」

「い、いいえっ そんな…」


思ったよりも琥牙が落ち着いていると思い、私は逆にその方に驚いていた。


「今回のこれ、多分あんただけが悪いんじゃ無さそうだけど。 何にしろ、今度真弥に近付いたら、どこ逃げたって殺すよ?」


あ、違う。 やっぱり滅茶苦茶怒ってる。


「だから大人しく静かに帰ってね」


琥牙は友好的な表情を作っているがその目は全く笑っていなく、それが高遠さんにとっては余計に不気味だったらしい。
彼の顔が真っ青になっている。


「あ、高遠さん。 上着忘……」


バランスを崩しつつも立ち上がりかけた彼に、一人掛けの椅子の背に掛かったままだった、彼の高そうな背広を取って渡そうとした。


「……ひ、ひぃぃっ!」


手を差し出しているこちらの方を見もせず、叫びながら脱兎の如く部屋を出て行く。

……あの人もらしくないなあ。 そんな事を仕返し代わりに私もぽそりと呟いた。



「なにしてんの」


立ち上がった琥牙が半ば呆れたように琥牙が私に視線を向けてくる。

ですよね。
やっぱり予想通りというか、矛先がこちらに向いてきた。



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