第24章 狼少年を追え*
ふくらはぎがベッドのボックスシーツに当たり、徐々に詰めてくる高遠さんの距離が近い。
「最初は普通に、人助けのつもりだったんだけど。 あんまり桜井さんが必死っぽいの見てたら可笑しくて」
「可笑しいって……そしたらこれ、嘘だったんですか?」
「嘘じゃないよ。 場所がここじゃないだけで。 それにしてもこんな簡単についてくるなんて、いくら何でもらしくないよね、桜井さん」
「…………」
確かにそう。
私らしくなかった。
ただ今のこの状況は、単に私が迂闊だからなのもあると思う。
結局、自業自得に帰結するそんな自分に、歯噛みをしたい気分だった。
だけど私なんかにこんなに構うこの人もまた、らしくないと思う。
「こんな風にしなくっても、高遠さんなら、他に……っ…」
簡単に後ろに倒され派手に体がベッドに沈みその先の声を塞がれた。
咄嗟に両腕でガードをした、その上に男性の体重が乗ってくる。
この、望まない男の掌中に入れられそうになる、なんとも嫌な感覚は、以前人の姿の汪牙にされそうになった時と似ている。
「あと、結構執念深いんだよね。 俺」
両肘を曲げて守っている自分の腕の隙間から、軽薄に曲がる口許が見える。
「桜井さんに興味もあるけど、あの彼氏への仕返し。 まだ付き合ってるっぽいし」
叫んで助けを呼ぶなんて歳でもない。
自らこんな所に入っておいて。
隙を窺って、逃げるのが無理なら、諦めて目を閉じてやり過ごす。
私が本来そんな性格だって、きっとこの人は知ってる。
「………離して」
でも、今は違う。
腿に触れる生温い指先に身が竦んだ。
頭よりも先に体が拒絶する。
「い……やだっ!! 止めて!」
大声を出し、相手を思いっきり突き…正しくは、蹴り飛ばした瞬間。
ガチャリというドアノブを回す音とともにそれを開けた直後、久々にその顔を覗かせたのは『彼』だった。