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オオカミ少年とおねえさん

第24章 狼少年を追え*



***

「ホテル名、教えてくれれば行くのに」

「え。 桜井さん、なにか言いました?」


ぽつりと洩らした独り言に、私の向かいのデスク越しに座っている上司が声を掛けてきた。
なんでも無いです! そう応えながら手元の作業に注力し始める。

本当は仕事なんかしてる場合じゃなくって、休みを取ってでもすぐにでも琥牙の所に行きたかった。

とはいえ。
さすがに連休明けで会社が忙しい時期に、続けて休むのも気が引ける。
前身がメーカーであった自社の性格なのか、勤怠やその辺りは割ときっちりと決められているのである。


『でも何度か彼を見掛けた時間って、夕方近くなんだよね。 ビジネスホテルだから、泊まってるとしても昼は居ないんじゃない? 今日なら俺もクライアントの所から直帰するから、案内するよ』

そんな高遠さんの親切な申し出だった。
それで私の方も本日定時前に早退が受理されたのは良いんだけど、正直、待ち合わせなんてしてる時間も惜しい。

そんなはやる気持ちを抑えつつ、予定時間の少し前になんとか本日分の作業を終えた。




***

都会の夏にとって、午後16時というのはなんとも過ごしにくい時間である。

昼過ぎに通り雨があったらしく、地面から蒸れるようなその湿気が不快指数を増長させてくる。

まだ強く照りつける陽射しに向かって理不尽な思いを募らせつつも、早足で歩を進めていた。

待ち合わせの駅は、私が以前住んでいたマンションの近くだった。


「桜井さん。 あれ? 早いね……俺も早く来すぎたから、ちょっとお茶でも飲んで待ってようかと……わっ?」

「お久しぶりです。 ホテルはこっちですか」


この暑い中でも相変わらず高そうなスーツをサラリと着こなす男────高遠さんの腕を取り、早速にと目的地に向かおうとする。


「ちょっ、えっと。 それ、はたから聞いたら誤解されそうな言い方」


そんな私に眉を上げて驚きを示し、苦笑しながらもそんな事を指摘してきてはっと我に返る。


「あ! す、すみません。 ……私ってば」


そして半ば抱えてた彼の腕を慌ててすぐさま離した。

この辺りは高遠さんの家の近くだって聞いてる。


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