第24章 狼少年を追え*
「朱璃曰く、今の牙汪の狙いはお前らしいな。 加世の妹のよし乃へ……その子孫であるお前への執着。 生前叶わなかった思いを遂げたいのだろう」
迷惑です。 しかし彼の息子さんを全力で拒否するのも忍びなくて一応はその言葉を呑み込んだ。
「……それは、琥牙へのり移ったからですか?」
「卵が先か鶏が先か……ただ琥牙といったか。 そもそもその者の内に、どこか弱さというか、隙が無かったか」
隙、ですか? ついでにご相伴に預かっているお茶の湯呑みを手で包みながら考える。
「どちらかというのんびりしてて。 争う事を嫌っていた節はありましたけど。 自分は強くならなくてもこのままでいいと、そう言ってた事もありましたし」
例えば、そういう自身の獣体を否定する心などには隙が生まれるだろう。 そんな供牙様の話に頷きながらもそういえば、最初会った時もまるで里から逃げてきた、という感じだったっけ。
あの時の事を思い出すとこんな事態にもかかわらず、くすりと笑いたくなる。
「だが私を遣わしたのは最善だろうな。 月が満ち、我らの霊力が高まる時にまた奴は現れる。 それまでに万一牙汪がやって来たとしても、対抗出来得るのはおそらく、里ではこの男の体に移った私ぐらいだろうから」
そんな光景は絶対に見たくない。
「そうなるかどうかは……今のところは時の運しかいえぬ」
それは供牙様も同様のようで、その表情に初めて暗い影を落とした。
「それからもう一つ。 資質が伴侶に似る私に、お前の伽の手解きをして欲しいと朱璃から頼まれているのだが」
「遠慮いたします」
たまに、あの人がなにを考えてるのかよく分からなくなる。
少なくとも最後の方は、私を琥牙の伴侶なのだと認めてくれていたように思っていた。
言いつけ通り私はきちんと体も動かしている。
彼らの特性などを教えてくれたのは有難かったけど、なんで他の男性をあてがわれてまでそんな事をしなきゃならないんだろう。
しかも琥牙が不在の今。
「まあそう怒るな。 可愛らしい顔が台無しだろう? 手解きというだけで、何も実際に交わらなくともよい」
いやらしさなど微塵も感じさせずに供牙様が薄く微笑み首を傾げる。