第24章 狼少年を追え*
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「まあ、厳密にいうと月末あたりまでは盆にあたるこの時節もあろうが。 まさか私が呼ばれる事になろうとはな」
マンションのダイニングテーブルを挟み、私の目の前に座ってるこの人は確かに二ノ宮叔父である。
以前に会った時は伸ばしっぱなしだった髪は今はすっきりと後ろに撫でつけられ、そうすると深い翡翠の様な瞳はどこか知的にも見える。
それに反して堂々とした体躯に静かな語り口。
この相反する特徴は、どこかで見覚えがあると思っていた。
「朱璃といったか。 今も祈り念じている。 あれの並外れた精神力や体力のせいもあろうが、未だ私を深く信心している、里の者達の為せる業なんだろう」
「…………」
いっそ無言になっている私に構わずその人は、先ほど私がわざわざ高級スーパーに走って購入した、一番高かった玉露の湯呑みに口をつける。
「しかしお前には感謝している。 またすぐに一緒になる事は叶わぬかも知れぬが、加世の一部を纏う事で、この魂の穢れが多少でも清められたのは、あれも同じと思っている」
「い、いいえ。 どういたしまして。 それで、あなたは供牙様……なんですよ、ね?」
「ああ」
週末の昼下がりに、私の元へ訪ねてきた二ノ宮叔父。
エントランスにあるインターホンを鳴らされて、室内でモニターの顔を見た時は何用かと思った。
あの暑苦しささえ感じていたその身に纏う空気は今は涼やかで、始終柔らかな曲線を描くその口許は品を崩さない。
そう。 この男色の中年男性の中身は紛うことなき供牙様。
「朱璃が言うには降りる事が出来るのならば、降ろす事も可能だろうと思ったのだと。 ましてや私は、未だ完全には成仏していない身でもある。 此度の事は自身の息子の、尻拭いでもあるしな」
「息子さん。 牙汪……さんですね」
本当は彼を『さん』づけなどで呼びたくもないのだが。