第4章 雨夜のためいき
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多かれ少なかれ、好意を持っていれば考えるんだろう。
誘うタイミングとか、その内容とか。
その雰囲気から相手の好きそうな服装やそんなものを。
「らしくないな……」
その日仕事が終わったあと、オフィスを出てぽつりと独りごちた。
相手に何と思われても別に良かった。
その日に限って誘える人間が社内に居なかっただけだ。
そういえば最近は琥牙と一緒にばかりいて付き合いが悪かったせいだろう。
幾分小雨になった空模様にほっとしつつも待ち合わせ場所に向かう足運びは心許ない。
自分の家に帰りたくない。
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安っぽくない赤で基調されたイタリアンレストランの店内は平日だというのにそこそこの客で賑わっていた。
軽い食事をし、私はもう何杯目か継ぎ足されたワイングラスを挟んで今朝の男性と話をしている。
「弟さんと一緒に住んでるの?」
「弟っていうか……遠縁の。 成り行きなんだけど」
想像通り、誠実な人ではあるみたい。
今朝方別れ際に彼から貰った名刺には本当に私の会社近くの弁護士事務所と『高遠 徹』という彼の名前があった。
「司法試験通るなんて頭が良いんですね」
弁護士といってもまだ事務所勤めの30前なんてまだまだヒヨッコだけどね、と彼が苦笑する。
「桜井さんは出版業界だけど編集の方?」
「書店やメディアとの取次の方。 昔から本は好きだったけど営業も肌に合わなくって」
「で、さっきの話だけど危なくない……高校生? それ位の男って性欲しか頭にないでしょ」
「そうでも無い。 そもそも10も歳上の女にそういう気になんないでしょうし」
私より三つ上の弁護士。
そりゃあ女には不自由しないだろう。
そう思うと逆に気楽に話せた。