第24章 狼少年を追え*
肘掛けに腕を置いている朱璃様が、そんな私をやんわりとたしなめてくる。
「真弥、お前はあれの伴侶としての自覚が足りんようだなあ」
「す、すみません」
しかしそれは分かるが、私はなんで今のこの状況で嫁としての性教育を受けてるんだろう。
そう考えている私に、朱璃様は人狼の嫁の心得を私に諭すのだった。
「この事だけでは無い。 諸々お前が狼狽えやすいのは、日頃体を甘やかし過ぎているからだ。 向こうに戻ったらお前はもう少し鍛えておけ」
***
そうして私は頭の隅に疑問符をいくつか置きながら、こちらに帰ってきてからは素直に朝に走ったり筋トレをし始めた。
別にそれが目的じゃなくっても、そうするのは嫌ではなかった。
彼らと過ごし知っていくにつけ、自分の体力の無さを痛感してた。
それに体を動かし始めた少しだけ、転んだり頭を打ったりする事も少なくなったような気がする。
私だって、琥牙に頼りきりなんて嫌だもの。
「鍛えるっていっても、何をどれ位すればいいんでしょうね?」
ダイニングでうんしょうんしょと腹筋をしている私を伯斗さんが座って監視している。
あと16回を二セットですね、そう言ってなぜかダイエットアプリなみに毎日三回回数を増やしてくる。
「そうですねえ……ここのバルコニーから出入り出来る位には」
ちなみにここ、三階ね。
そういえば二ノ宮くんなんかは二階位の高さから飛び降りても平気そうだった。
私の体は普通の作りなわけで。
するとモモンガみたいに木の枝から枝に飛び移れと?
そういうのは体が大きいと逆に厳しいんじゃなかろうか。
「そういえば、琥牙のお父様は大きかったらしいですけどどれ位あったのですか」
「最近里に入ったあの緑の目の、あの方より拳一つ分程ですか」
あの大柄な二ノ宮叔父を思い出す。
という事は身長はゆうに190センチ超えか。
……あの朱璃様とよく出来たなあ。しかも何回も。
「しかし体格とサイズが比例しないように、狼の雄と人間の雌というのも、必ずしも無理からぬ事では無いらしいですよ。 特に経産婦ともなれば」
そんな私の考えを見透かしたかのように、伯斗さんがどうでも良い豆知識を披露してくれる。
「いやそれはさすがに……」
あの墓で見た牙汪のアレ、軽く私の手首くらいはありましたし。