第23章 狼の里にて 前編*
「……牙汪って人、奥さんが7人居たんですよね。 確か」
「はい。 ですけど、私をいびってる方が楽しいって言って、しょっちゅう私の所へ入り浸ってました」
苦々しげにそう続けるよし乃さんの前で、私は薄い笑いを浮かべていた。
……実の妻を放っておいて。
「ちなみにその人、なんで亡くなったの? やっぱり何かの争いで?」
「牙汪様は結局、まだお若かったというのに奥方たちに恨まれて殺されました。 その際なぜか、私もとばっちりを受けたみたいでして。 その際にここを逃げて、実家にまた戻ったんですが、そこでお見合いをした夫と結婚したんです」
再び手をぽんっ!と叩きたい気分になった。
今度はより激しく。
分かった、馬鹿なんだ!
牙汪ってのはすごく馬鹿なのね!?
「夫は婿養子に入って、それからは元の薬屋を営む事が出来て、私の実家も持ち直したんですよ」
歳も離れてましたが、優しくて働き者の夫だったんです。 そう穏やかな声で話してくれる。
背の高い私の先祖様、よし乃さん。
おそらく牙汪に想い(かなりこじらせてはいるが)を寄せられていたらしい。
「旦那さんに大切にされてたんですね」
ええ。 と懐かしげに目を細める。
確証はないけど。
供牙様の事を話した時のよし乃さん。
今もそこにある幸せを見るような顔をして。
私の御先祖は、供牙様の事が好きだったんじゃないのかな。
なんとなく、そんな事を思う。
そしてきっと供牙様は、加世様の妹である私の御先祖に、愛する人の面影を追ったのではないだろうか。
あの時に私を愛したみたいに。
だからといって、これ以上彼らの関係を詮索するのも野暮というものだ。
よし乃さんは自分の家庭を持って生涯を終えたのだから。