第23章 狼の里にて 前編*
「ああ、もう夜明けですね……」
ここからは外の様子は見えないが、時計に目をやるともう朝の5時近くになっていた。
最後にと、気になっていたお墓の事を訊いてみた。
「実は私のお骨は、死後実家の方とここに、分けられたのですよ。 牙汪様が一人っきりではあまりにも外聞が悪いと。 私も世話にはなったわけですし」
なるほど。
「元のご家族の所にもあるんなら良いけど。 でも……半分でも、牙汪の傍って嫌じゃない?」
「供牙様と同じで彼も成仏してないらしく、互いの姿を見る事はないんですよ。 こうやってお盆に、私みたいにこちらに来れる事も出来ないでしょうし」
ほっとしているみたいな、けれどどこか同情混じりの表情だった。
昼間ここに戻る途中、朱璃様が言っていた。
この世で悪い行いをして、強い思いを残した魂は成仏出来ずにさ迷うのだと。
『それでもつかの間の休息の際は、彼らは墓に帰ってくるけどな。 だが牙汪のように、いくらさ迷い続けても誰も自分を見ない、応えてくれない。 思いを遺さずに逝って、呑気に月見などをしている始祖と違い、私にはそちらの方が余程地獄のように思えるよなあ』
彼に課せられた永遠の孤独。 そのせいで牙汪の魂は、子孫の琥牙の体に入り込んだのだろうか。
「余りお参りする方がおられないのは寂しくはありましたけど、あなたに今日こちらに来て頂けて、とっても嬉しかったです」
そう締めくくってお互いに席を立ち、すっかりと打ち解けた様子の彼女が再び私の手を握ってきた。
「また遊びに来てね! こちらの土地の方が霊力も高くて動きやすいから……ええと?」
「私、真弥っていうの。 また来年のお盆でも?」
はーい、真弥ちゃん。 じゃあね~、そんな同窓会的なノリで私たちは別れ、明け方にやっと仮眠代わりに多少の睡眠をとる事が出来たのであった。
うん、いい人で良かった。
成仏が出来ない。
………そんな彼らでも、眠る時は安らぎのあるものであって欲しい。
『生前の行いが何であれ、ここを粗雑に扱った、その責任は我らにもあろうな………』
そんな朱璃様の言葉を思い出しながら目を閉じた。