第23章 狼の里にて 前編*
とりあえず私も立ち上がると、よし乃さんがなんだかまじまじと私を見てきた。
「まあ、随分……」
そう声に出したあと、同じ目線で顔を見合わせた私に憐れむように言ってくる。
「私と同様、あなたもさぞ苦労されてるのでしょうねえ」
そういう事か、と手を叩きたくなった。
確かに、昔の日本女性にこの身長はあり得ないと思う。
たとえば江戸時代なんかでは140センチとか、丁度朱璃様位がスタンダードだった筈。
そんな彼女は顔の造作が何であれ、女性の立場も弱かった当時としては、奇異な目で見られたのかもしれない。
そう思ってると、澄んだ瞳で力強く手を握ってきた。
「でも大丈夫です。 不器量に生まれたって、強く生きて下さいね!!」
その純粋な鼓舞激励に、なにか負けを認めた私は複雑な思いで頷いた。
私が泊まっている部屋は客室用に作られているだけあって、ホテルとまでは言わないまでも、生活に必要な家具などがワンルームにコンパクトに収まっている。
立ち話もなんだから、と彼女を部屋中央に誘ってから丸いテーブルに向かい合って私たちは腰を下ろした。
「お礼を言えてよかった。 丁度お盆だったから出て来れたのよね」
「他に会う人は居ないんですか?」
「夫や子供、自分の家族にはいつでも会えますから。 でも、牙汪様には嫌われていたし彼は無理ね。 私もあまり会いたくないし」
ほう、とため息をつきながら話を続ける。
あの時に見た二人。 きっと彼の性格のせいなんだろうだけど、仲が良いという感じでは決してなかったもの。