第23章 狼の里にて 前編*
***
大分夜も更け、外を鳴く虫も微睡みはじめた頃。
遅くにベッドに入ってからも落ち着かない様子で待っていた。
『今晩でも本人に聞いてみるといい』
まだかなあ。
元々鈍感なのか、今まで霊感などとは無縁だった私。
だけど、朱璃様がそういうのなら来て下さるに違いない。
子供の頃、クリスマスにサンタクロースを待っていた、そんな気分だった。
「…………」
そう思っていたが、噂の丑三つ時になっても彼女は姿を現さない。
……色々お話したかったのにな。 そう思いつつ、つい、うとうとと瞼が沈み始めたその時。
「遅くなってごめんなさい!! ここ、昔と違って変わっちゃったから、色々探検してたら道が分からなくなって」
そう言ってゆさゆさ肩を揺さぶってくる。
御先祖、幽霊なのに力が強い。
張子みたいになってかくかくと揺らされながら、感慨深く出会いを噛み締める。
「怒ってます?」
いいえ、私も方向音痴だから。 そう言って顔の前で手を振る。
むしろ親近感しかない。
それでも不安げに私を見ているその人は、やはり今朝に見たあの女性だった。
足はあるのかと思って視線を下に向けると、ちゃんとあった。
やはりいい伝えや史実なんてものは多少の嘘があるのかもしれない。
それにしても、涼やかな目元といい、上を向いてカールしたようなまつ毛といい。
「昼は綺麗なお花をありがとうございました」
この人が不器量ってどういう事?
都内でその辺を歩いてたら、半分位の男性が振り返りそうな感じですよ。
「よし乃といいます。 もう何十年ぶりかしら? 私に贈り物なんて」
そう頬に手を当てて嬉しがる様は雰囲気がガラッと変わり可憐で、私はますます首を捻る。