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オオカミ少年とおねえさん

第4章 雨夜のためいき



翌朝の私は少し余所余所しかったと思う。

今朝は朝からの雨だった。
帰りは迎えに来ると言ういつも通りの琥牙。


「来なくっていい。 今日は大丈夫」


今晩は仕事が終わったら飲みに行く予定だから、と言い残して私はマンションを出た。


通勤途中の電車内。
吊革につかまりながら頼りなく揺れる体は今の私の気持ちみたい。

ぼんやりとそれに身を任せていると電車が大きく急停車した。


「……っと! 大丈夫ですか」


低く通る声。
よろけた拍子に肩を支えられて左側の方向を見る。
知らないサラリーマンの男性だった。

歳は私よりも少し上だろうか。


「ありがとうございます」

「いえ。 この時間によく見掛けますけど、降りる駅も同じですよね」

「そうなんです? すみません、気付かなくて」


にこりと笑いを残して再びその男性が前を向いた。


「どこかのモデルさんみたいで目立ちますから」


軽いとまでは言わないけど、恋人が途切れない感じの人だと思った。

しとしとと、雨みたいに降ってくる。
薄らと湿った膜のようなもの。
予感というには脆く、意識せずにいれば簡単に指をすり抜ける。

たとえばこんな所から愛だの恋だのが始まるのかもしれない。
たとえば何度か食事でもして甘い囁きをベッドでくれるのかもしれない。

私は今までそんな恋愛しかした事が無い。

至極普通だと思ってる。

特に今の自分に『それ』が必要な訳ではなかった。


けれど琥牙とはそんなものは分かち合えない。


『ダメだよ』


……分かってるからこそ、きっともう潮時なんだろう。


「私は神保町の出版社で働いてるんですけど」


雨に滲む車窓が視界に入る。

それなら僕の職場の近くですね。そう受け応えをする男性の柔らかな表情を眺めていた。


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