第23章 狼の里にて 前編*
というか、7人……。
狼って、基本的に生涯に伴侶は一人じゃないの?
「そちらの方は逆に子孫繁栄なんて祀られそうなものですが……」
なんとなく、冗談交じりにそんな事を言ってみると、老人が大げさに首を大きく横に振る。
「とんでもない。 始祖の子は領地争いで負けた村から、人質として無理矢理に娘を差し出させてたって話だよ。 雌狼や人狼を問わずな。 それがいくつもの争いの火種にもなった」
傾国の美女なんて言葉がある。
女性を取り合うのに国を傾けるなんて迷惑な話だが、本気で好きになったらそんな事もあるのかなあ、なんて呑気に思っていた。
けれど無理に拉致るなんて……あんな小さな子を傷付けるなんて、女性を奴隷にみたいに扱った上にそうなるんなら、自業自得どころではない。
とりあえず。
牙汪という人の性格の悪さはよく分かった。
私は墓碑の前に差した花を、両手ですべて花瓶からずぼりと抜くと、傍のその女性の方にそれを移した。
「あっ。だからそんな事をすると」
それを見た老人が直前にそれを止めようとして慌てて口にする。
「私、この始祖の子って人、嫌いみたいです」
その場で呆気に取られている様子の彼を残し、私は大股でざかざかと元来た道を戻ろうとした。
縁遠くなったって、人の気持ちも考えない節操無しを悼むよりはマシってもんだ。
「まあ待て、真弥。 お前も知っての通り、史実には間違いも多いよなあ。 私の所にもたまに彼らが語りかけてくるからな。 それ位は分かっている」
私と一緒に老人の話を聞いていた朱璃様が私の後ろをついてくる。
それに気付いて歩幅を緩めた。
「すみません。 ですが」
「やはりお前の先祖か。 よし乃といったか、沢の所に牙汪と並んで眠っているのは」
「え? でも、彼女は生涯牙汪の世話係だったと……」
「言うたが、史実が全て正しいものではない。 なんでも実家で父親が亡くなり、加世も亡き後にそれを知らずに、よし乃は義姉を頼って里へ訪ねて来た。とはいえ、始祖、それから牙汪も死んだ後はどうしたのか、お前が訊いてみるといい」
「訊いて……?」