第23章 狼の里にて 前編*
「ここがなにか知らず子供によく悪戯されるんでな……花を?」
「……今はお盆ですから」
仕方なく。
厳密に彼らにそういう習慣があるのかは分からなかったが、供牙様の所では今朝は確かお線香の香りがした。
「……申し訳ないがそれは引き取ってくれないか。 見たところ、お前さんはまだ独身だろう?」
はあ、私は老人に曖昧な返事を返して軽く首を傾げた。
独身がなにか関係あるのだろうか。
「ここが忌み嫌われる理由は色々あるんだが、関わると縁遠くなるとも云われている。 だので私みたいな年寄り以外は滅多に近寄らんのだよ。 ホレ、特にそこに小さな墓があるだろう?」
小さな墓。 おそらく今足元にある、岩を積んだだけのものだ。
「気立ては良かったといわれておるが、大層不器量な娘だったらしくてな。 だが始祖様の子は、ずっとその者を傍に置いていたそうだ。 そのせいもあり、その女には結局一生縁が無かったとか」
娘……適齢期の女性をずっと?
『大層不器量な娘』
その失礼な物言いには覚えがある。
『お前と違ってな』
『あんな大きくて、不細工な』
「……二人は夫婦だったのではないですか?」
一応、そう訊いてみる。
「それは無い。 始祖の子には正妻をはじめ7人の妻がいたと聞いている。 その娘は妻でもない、ただの彼の世話係だったようだ」
生涯未婚。
予想とは少し違ったようだ。
もしかして最初の長身の女性が私のご先祖様なのかも、と思ったのだけど。
なんだか気の毒な話であるが、それで、関わるものは縁遠くなるなんて言い伝えがあるのだろうか。
それに、昔はこんな所でも、結婚するのには他に家柄なども関係したのかもしれない。