第23章 狼の里にて 前編*
私が知る限り、最低の人じゃないか。
「伯斗から『あの時』の琥牙の特徴を聞いて、まさかとは思ったがなあ。 お前の話を聞いてようやくな。 あれが別人であるのがはっきりしたのなら、また話は違うよな。 ──────われらの敵は息子ではなく牙汪だ」
「私の話を………?」
『われらの敵は息子ではなく』
強いていえばここだけは喜ぶ、べきだろうか。
「でも何で、亡くなった人が……? それに、私の御先祖様は、どこにいるんでしょうか」
「ん。 心当たりがないでも無いが、再びそこへ墓参りと行こう。 盆の時期は出やすいというしなあ。 帰ったら昼にしようか」
そう言うやいなや朱璃様がすたすたと室を出て行き、また慌ただしく私と伯斗さんが、それに続く。
出やすいって……なにがですか。
***
そんなわけで、私たちは再びあの暗いお墓の前に立っていた。
途中で摘んできていた花をそこに手向け、相変わらず嫌な違和感のようなものを感じていた時、その横に小さなもう一箇所、ひっそりと石が積んであるのに気付いた。
さっきはこれに気付かなかった。
「誰じゃ」
そんな老人の声にびくっと肩を竦ませてその方向に顔を向けると、伯斗さんよりも更に老いた狼が、私の方に歩いてきていた。
彼らのいう所での『老い』は、声の感じやその動き、毛艶や顔付きなどで区別がつく。
そんな彼に朱璃様が声を掛けた。
「息災にしているか? 昨晩は顔が見当たらなかったが」
「ああ、これは朱璃様、と伯斗。 場の雰囲気が悪くなると困るから、年寄りは遠慮させてもらいました」
お辞儀をする私に目を留めて、「それではあなたは朱璃様のご親戚。 済まなかった」 そう詫びてきた。
体育会系?だけあって、こちらには礼儀正しい人が多い。
そう思っていると私の手元と墓碑を覗き込んできた。