第23章 狼の里にて 前編*
先ほどから、注意深く私と朱璃様の交互に視線を向けていた伯斗さんが穏やかな様子で仲裁に入ってきた。
「真弥どの。 朱璃様に今朝の話をしてみられては? 双方少し冷静になった方がいいように、私には思えます」
にっちもさっちもならない空気に、一応はそれに私が頷いた。
でもまだ気が立っていたせいだと思う。
説明をしている間、所々支離滅裂になったり早口になったりする私に、伯斗さんがフォローを入れてくれていた。
朱璃様は身動ぎもせずじっとそれを聞いていた。
やがて胸の前で組んでいた手を解いて、私を覗き込むように椅子から前に身を乗り出した。
「……大体は理解した。 一つ、教えてほしい。 お前がそれを知った理由は?」
「供牙様の事ですか? ご本人が夢で教えてくれました。 妙に現実味のある。……加世様の事も」
ふむ、と一言呟き、同じ調子で更に訊いてくる。
「彼らの子、名は牙汪(がおう)というのだが、それとは会わなかったかなあ?」
朱璃様がなにを言わんとしているのかがよく分からず、ふるふると首を横に振った。
「いえ……あっ! でも」
頭に血が上っていて、朝に見た事を言うのを忘れていた。
口を開きかけたが、考えると、あの話には今のところ全く信憑性がない。
一方、白昼夢を見た場所、あの墓の主。 『冷酷』で、琥牙と同じに人と狼のハーフだったという牙汪……。
「……朱璃様。 牙汪の、人の時の外見はどのようなものだったんですか」
私の問いに、朱璃様の目が半月気味に弧を描く。
「───代々の、成長した人狼としては珍しい亜麻色の髪、細めの面立ち。 そして粗暴な態度。 辿り着いたのならお前はなかなか聡い」
やっぱり、朝の……?
……なぜか朱璃様はどこか愉しそうな表情をしている。
でも私は全然面白くない。
「牙汪…………」