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オオカミ少年とおねえさん

第23章 狼の里にて 前編*


***
通された部屋の木戸を閉めると、朱璃様は本棚などがある壁際に佇んでいて、私を見るとああ、とだけ言った。


「あ、朱璃様、あの今………」


「何だ? いい歳の女が傷だらけで。 まあ、落ち着け」


これは伯斗さんが。 そう言おうとして黙った。


「…………?」


妙な沈黙が続く。

朱璃様のその雰囲気に、いつものような朗らかさがない。

なんだか声を掛けづらく、物々しいものを感じて、伯斗さんを見ると彼も首を傾げてこちらを見返してきた。

食事などの支度もまだ無い様子で不思議に思っていると、硬い表情のまま彼女が足を進めて私の前に立った。


「あの、朱璃様………?」


そして私を見上げてこちらへ向かって手を伸ばしてきた。

大きさの割に厳重に蓋をされた、数センチ程の遮光ガラスの小さな器がそこに握られている。


「なんですか、これ? 瓶の中に、丸薬……?」


それを受け取ろうと手を出しつつ、単純に疑問を口にする。


「イボノキという植物の果実を乾かして固めたものだ」


手を止め黙って目を見開く私を見て、知っているのか? と意外な顔をした。

人払いをしているのか、二つある広間の奥まった狭い方には今朱璃様と伯斗さん、私の三人しかいない。

それは最もな事だろう。


「おそらく真弥がその機会を多く持つ。 もしもお前に会いに来たら、これを琥牙に」


イボノキ。
小さな頃に祖母から聞かされていた。
真弥。 決して触ってはいけない。 これは─────────


「朱璃、様……? だって、これは…」


「神経性の毒薬。 せめて即効性のあるものを選んだ」


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