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オオカミ少年とおねえさん

第23章 狼の里にて 前編*



反して、それを跳ね返すどころか気にも留めずといった男性側の返答。


「お前がオレを怒らせなければ、そのガキはそんな目に合わなかったのかもしれないぜ?」

「そんな!? わざわざ? ……だって他にも、あなたに仕える者はいるじゃないですか。 奥方様だってもう」

「さあな。 そのガキもあと二、三年もすれば美しくなるだろう。 お前と違って」


けれど私は先ほどから違和感を感じていた。
その彼の、嘲笑めいた表情はどこか作り物っぽい気がしたからだ。

それがなぜかは分からなかった。


一瞬だけ俯いた女性が顔を上げ、懇願というには強い意志を感じさせる様子で言う。


「………この子の手当をしてあげても良いですか」


日本人らしいというより、はっきりとした顔立ちだった。
彼の物言いが不思議に思えるほどには、美人な部類だと思う。


「まあいい。 体が治ったらそれをオレの所に寄越せ。 それから、奥方とやらを呼んで来い……何なら、お前でも構わないがな。 光栄だろ?」


「奥方様を呼んできます」


呆れたような小さなため息と共にそう言い、女性は丁寧に少女の体を抱きかかえる。
そしてすっと立ち上がると、おそらく家の正面の方向に足早に消えていく。

男性の方はその後ろ姿が見えなくなってもしばらく、じっとその方向に視線を注いでいた。


「……フン」


やがて低い造りの縁側にどっと腰をおろし、ぼんやりとした様子で私を見る。

正確には私がいる方向を、だ。

間違いなく、彼らからは私が見えていない事は分かった。


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