第23章 狼の里にて 前編*
けれど私は引き下がりたくなかった。
琥牙に似た空気を纏う、一方酷く孤独なあの人の力になりたかった。
「花畑です。 靭草に茴香、あとは分かりませんが、おそらくこれらはすべて薬草でしょう。 私の先祖は加世様の家に関わって……私の生家も、元々、薬屋だったと聞いています。 朱璃様から、もっと貴重なものは地下との中腹にあるとも。 これが今は皆さんの里を守り、この畑を供牙様も同じに守っている。 私にはそう見えます。 違いますか」
伯斗さんがじっと墓碑を見詰め、考え込んでいる。
あの二人をなんらかの形で一緒に眠らせてあげたい、それは私がここに来たもう一つの理由だった。
「……分かりました。 ですが、私の一存では。 昼食時に朱璃様に話してみましょう。 ……しかし、真弥どのには色々驚かされますな」
「すみません」
小さくなる私に、今までの事を考えると謝るべきなのは、むしろこちらの方なのですから。 伯斗さんが墓碑から目を外さないままそう言った。
それからお昼を待つ間少し時間があったので、明るいうちに少しだけその辺りの散策を続けた。
お風呂のある、沢の側に来るともう一つ、今度は小さく暗い感じの墓碑を見付けた。
いやに殺風景というか、粗雑に扱われているもののような気がする。
「これは、これもお墓……ですよね」
それはまるで、なにか罪を犯した人のもののように。
「それは始祖の子の墓碑です」
『強く冷酷で、薄幸な』供牙様の子供─────
「でも、なぜ彼だけがここに…?」
少なくとも彼は人と狼の頂点だったと聞いている。
「彼は余りにも強大過ぎたために、ここは村から里へと縮小されたのです……とても多くの犠牲を出して」
年中日に陰って湿ったここの場所に限ってかも知れない。
だけど、首元から耳の辺りに纏わりつくような、冷たい不快感はなんだろう?
もしも興味がおありなら、この様な話は朱璃様の方がお詳しい。 伯斗さんがそう教えてくれる。