第22章 郷曲におもむく(身長)
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ここにきて既に色々と驚かさせているのだが。
これもまたもっとこう、農村~って感じのを私は想像してた。
木の大きな樽? に水を溜めたものを下の薪を口で吹いてあっためるやつとか。
「ここいらは温泉とまではいかないが、源泉が湧くのでなあ。 夏はぬる湯もおつなもんだろう?」
「はい。 気持ちいいですねえ……」
現在私たち女二人は、ほうと目を細めていきなりお風呂に浸かっている。
夕食前に、軽く道中の汗でも流さないかとのお母様からのお誘いだった。
ぬる湯といっても、夜の山腹よりは随分温かいお湯から、立ち昇る柔らかな湯気が辺りを包む。
しかし露天風呂まであるとは思わなかった。
花畑より崖側に里があるが、その反対方向には沢がある。
沢のすぐ近くに岩組みのお風呂があるのだ。
「済まなかった。 あんな事があって、本来はこちらから出向きたかったのだが、生憎と私はここを離れられないからなあ」
この人の夫であったリーダーが亡くなってからは実質的リーダーが不在の里。
琥牙のお母様が、ここの一切を切り盛りしてると聞いている。
琥牙が心配じゃないのかな、なんて思っていたけど、こんな規模ならば実際、彼に構ってる暇なんてないのかもしれない。
「─────────────月」
まだ低い位置にある半月が膨らんだ、クリームパンみたいな形の下弦の月を見上げて呟いた。
どうした? と彼女が訊いてくる。
「次に満月が来るまでには、どうにかしなきゃって思ってたんです。 こちらこそ急な来訪ですみません」
以前琥牙が獣化した時は、そうだった。
それでなくとも満月の夜に彼らの力が増すのは知っている。